知多最南部は暖かかった、お遍路ポタ。

去る1月の或る日、今年最初の外来診察日。担当医は言った。「カトウさん、この間言ったことはあまり気にせんでいいですよ」。この間言ったこととは、手術中断後の最初の外来日に言ったことだろう。その説の通りなら私は来年の正月は迎えられるかどうか分からないことになっている。私が見かけ上元気で、レントゲンではがん細胞も大きくなってないことから、担当医も意見を変えたのだろうか? それともたんなる慰めか?
がん告知はしたほうがいいと思うが、余命については聞かないほうがよかったと思う。その後今日まで、夜中にふと目が覚めた時、これから起こるであろう事を考えて、底知れぬ恐怖に包まれ、眠れないことも何回かあった。
怖くて読めなかったガン関係の本を手術後いろいろ読んだ。そして力づけられた。現代テクノロジー医学の実態も垣間見た。何が起こるかわからないのだ。希望は捨てないこと。そして、尊敬するA・ワイル博士の言う如く、「少しでも気分の晴れることをやりなさい、よい空気が吸えるところへ行きなさい。深く息を吸いなさい」に従って自転車を積んで知多半島へ飛び出した。
「かぎりない喜び」って、いい言葉だ。この日は温かかったが、冷たい向かい風の時でも、今の自分にとってペダルをこげることは「かぎりない喜びだ」。「ペダルをこげること」は、そんなにも楽しいことなんだ。一日でも長くペダルをこぐことができますように。


前置きが長くなってしまった。そんなわけでこの日も懐かしいグラウンド、知多半島へ遍路ポタに出かけた。この日は篠島日間賀島。島巡りがメインだ。
ここは大井漁港の近く、海に浮かんでいるのは弘法大師上陸像。すぐ横の駐車場に車を入れて出発したのだが、この写真は帰ってきてからのもので、弘法大師が夕日を浴びている姿。
出発時は師崎発の連絡船の時間が気にかかって上陸像を見に行ってる余裕がなかった。35番成願寺、36番編照寺と納経もそこそこに師崎へ急ぐ。

師崎港の待合室で待つことしばし。篠島行きの連絡船が入ってきた。自転車は待合室の外の立木にくくりつけ乗船。
篠島へ渡るのは4年ぶりか? 5年ぶりか?
向こうに見えるのは日間賀島


隣を走っているのは伊良湖行きのフェリー、サンフラワー号。
海は穏やかだ。
春の海 ひねもすのたり のたりかな

篠島へ上陸。漁港は汚れていて油も浮いていた。工場から排水が海へ垂れ流しだ。
そんな風景を見て歩いていくと、やがて狭い路地に入る。弘法さんの目印、卍の旗に導かれて路地をすり抜けてくと、



整列したお地蔵さんに迎えられ、38番寺正法寺へ着いた。ここで接待にいただいた飴玉をなめながら、番外寺西方寺、39番寺医徳院へ向う。



篠島港へ戻り、再び連絡船で今度は日間賀島へ向かう。乗った船は2010年10月に就航したばかりの新造船はやぶさ号で、61トンと船体も大きくきれいだった。
乗客は2人のみ。はやぶさは白波を蹴立てて、あっと言う間に日間賀島に着いた。

日間賀島東港へ下りたところ。右側を歩く紳士は乗り合わせたただ一人の人。信号は島で唯一のもので点滅式。
信号の右側が切符売り場だが、ここにいた婆さんが「15分後に師崎行きが出るよ。早くお参り済ませといで」と、せかされ37番寺大光院へ急ぐ。寺はすぐそこだ。
参拝を済ませて切符売り場に戻ると、さっきの婆さんが「このしらす干し、うちの息子が作ったんだけど旨いよ。ひとつ買っといで」と言われ、試食した味も分からぬまま、一袋500円のしらす干しを買ってしまった。
島もこの辺りは時間が止まったままのようで静かだ。



師崎に戻り、岬の先端に行く。ここは知多ライドする時に必ず寄って何かを食べる、お気に入りの場所。
篠島の島影が春霞にあったように少し薄い。
春のように穏やかな海だ。




立ち木にくくりつけたBIANCHIに乗り、自転車遍路の再開。先ずは豊浜の浄土寺(通称お亀さん)を訪ねる。
昔、海から上がってきた亀をイメージしたというこのお亀さんとは、もう三十数年のお付き合いだ。



豊浜漁港の市場食堂をちょっとのぞいて(ふかひれ酒が今も飲めるか確認して)40番寺影向寺へ。再び豊浜へ戻って高浜交差点から県道261へ入る。車もほとんど来ない狭い261号も私のお気に入りだ。50m弱登ると小さな峠に出る。知多半島最南端の丘陵地帯が望める。丘陵地帯に広大な畑が広がり、最初訪ね時は「こりゃミニ富良野だ」と、思ったものだ。


峠から一気にdown-hillと行きたいところだが、向こうが見えないカーブで軽トラなどが来るから要注意。大井の漁村へ向う。大井には5軒のお寺がかたまっており、一気に稼げるから便利だ。
31番寺利生院と32番寺宝乗院では弘法大師の手に握られた紐が参拝者のところまで伸びている。
暗くてよく見えないが、この紐は弘法大師がしっかりと握っているのだ。参拝者はこの紐を握って弘法大師にすがるのだろう。私もそうした。


この日の予定を終わり大師上陸地の駐車場へ帰る。ここでゆったりと上陸される弘法大師に面会に行く。最初の写真がそのときのもの。
小高い岡の上に小公園があり、行ってみると河津桜が一面に植えてあった。つぼみも膨らんでいる。もしかして、と思って探したら・・・・
あった、あった、ひっそりと咲く一輪の河津桜が。